Tさんの話

これは、私自身、思い出してもちょっと切ない話なんだけどね・・・
看護婦になって、2年目頃、
Tさんという、末期癌の患者さんがいて、
入院したときには、もぅ、手の施しようがなくて、余命、半年くらいだった・・・
めちゃめちゃ怖いおじさんで、みんな、寄りつかない・・・
やりたい放題で、注意すると、怒鳴る・・・、で、めちゃくちゃ怖い・・・
ダメって言うことばかりするし、看護婦には返事もしない・・・
ある晩、夜勤の時、発端は覚えてないけど、私と言い争いになった・・・
私も若かったし、怖い者知らず・・・っていうより、真剣に怒った。
相手が怒鳴ろうが、つかみかかってこようが、「Tさんのためですっ」って引き下がらなかった。
そしたら、突然、泣き出してね、それも、大粒の涙こぼして、・・・
で、いままで、一生懸命働いて、会社興して、やっと安定した矢先、
跡を継ぐ息子はまだ、高校生で、心配と 不安と いらだちと・・・で、いらいらしてた。
誰にも話せなかったのね・・・
娘みたいな私だけど、抱きしめて聞いてあげる事しか出来なかった・・・
でも、それが嬉しいってね、すっごく穏やかな患者さんになったの。
で、とっても可愛がってくれて、あたしが夜勤の時は、お寿司、差し入れしてくれたり、
私も、時間があるときは、ずっと話を聞いてあげてた。 それだけなんだけどね、
あたしが、勤務交代でICUおりるとき、寂しがってね、会いに来るよって言ったら
「あいたくなったら、這ってでもいくから・・・」って・・・
「いい、看護婦になれ・・」って、造花だけど、バラの花一輪くれた・・・
それから、しばらくたって、Tさんが、悪化してる・・・っていうの聞いてね
会いに行った・・・病室でにっこりしてね・・・息子さんに手握られてた・・・
息子さんに挨拶されちゃつて・・・うん
それから、数日して、休みの日に彼氏と(夫君)とデートでホテルに泊まったのね
で、なんだか、夜中に目が覚めた・・・音がするのね・・・
パタパタ パタパタ・・・って耳元で・・・そう、手で枕叩いてる音
で、当然、横にいる彼氏だと思うでしよ・・・でも、熟睡してる・・・
でも、まだ、枕叩いてる・・・パタパタ・・・
で、彼氏の両手確認・・・しっかり、下にのびてる・・・
電気つける・・・時計見る・・・音は続く・・・枕が、少し、へこんでる・・・
パタパタ パタパタ・・・彼氏を起こす・・・起きない・・・パタパタ・・・
で、瞬間的にTさんだって・・・そしたら・・・止まった・・・シーン・・・
次の日、寮に帰ったら、同僚から、亡くなったって・・・穏やかだったって・・・
時間は・・・予想どおり・・・
うん、会いにきてくれたんだねぇ・・・最後にね
Tさんからもらったバラの造花は、まだ、宝石箱の中・・・
なんか、守られてるような気がしてね・・・

inserted by FC2 system